<死に場所> 3
「躯!!」
ばあんっと大きな音を立てて、部屋の扉が開かれる。
薄暗い部屋に廊下の光が差し込む。
それも大した灯りではないが。
扉に仁王立ちになっているのは、問題の邪眼師。
いきなり入ってきた彼に、躯はがたんっと音を立てて立ち上がった。
「あ……飛影」
「……これはどういうことだ!」
一瞬にして、躯の目の前まで飛び、机の上に着地すると(少しヒビが入ったが…)、右手に握りしめている紙を突き出す飛影。
ぐしゃぐしゃになっているところを見ると、ものすごい力で握りつぶした後、もう一度開いたらしい。
「……」
「どういうことだと聞いている!?」
「……飛影?」
ふいに飛影の後ろから声が聞こえた。
はっとして振り返ると……背もたれが大きすぎたために入り口からは、誰が座っているのか、いや誰かがいるのかも見えなかった椅子に腰掛けた赤い髪の青年が、不思議そうな顔で見つめていた。
ばっと肩をつかみ、がくがくと揺らす。
「おい! 生きてるか!?」
「……どう見ても生きてるでしょう?」
半ば呆れたように言う蔵馬。
その様子に飛影は苛立つ前に、ほっとしていた。
怪我もなく、至って健康そうにしている彼に……安堵のため息が漏れた。
「何焦ってるんだ?」
「……べ、別に何でもない!」
慌てて、蔵馬から手を離し、叫ぶように言う飛影。
何故そんなに焦っているのか……蔵馬には全く分からない。
別に躯と喧嘩をしていたわけでもないのに、何故生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされねばならないのか……。
「……とりあえず、俺はそろそろおいとましますよ。躯、それじゃあ」
「あ、ああ……」
「俺も行く」
つっけんどんに言うと、飛影は机から下りた。
少し躯が残念そうにしたのは、致し方ないだろう。
だが、一ヶ月ぶりに会えたことが嬉しかったのか、引き留めようとはしなかった。
しかし、躯はそれ以上に真っ直ぐな視線を彼に向けて言った。
「おい、飛影」
「何だ」
「それ……あながち嘘じゃないからな」
「!」
途端、飛影の顔が蒼白になる。
先を歩いていた蔵馬は、突然飛影が固まったことに、不思議そうに振り返った。
続いてみた躯の顔が少しだけ……にやりとしたような気がしたのは、気のせいだろうか?
「大事なもんなら……守ってみせろよ」
「飛影、躯に何て言われたんです? というより、あの紙何が書いてあったんですか? 躯に没収されたみたいですが」
百足の廊下を歩きながら、飛影に尋ねてみる蔵馬。
しかし、答えはやっぱり予想したとおりだった。
「……フン。貴様には関係ない」
「そうですか?」
あの状況からして、そうではないような気もしたが、まあいいかとそれ以上の詮索はやめることにした蔵馬。
今回ばかりはやめておいてよかっただろう。
なにせ、躯が書いた内容は……、
一人、自室のベッドで天井を仰ぐ躯。
一ヶ月前の喧嘩の後は、綺麗に直っている。
最初は本当にそれだけのつもりだった。
直ったら、すぐに帰れと言うつもりだった。
そうしなかったのは、飛影が帰ってきてくれる確立を少しでも上げるため……。
使い魔に届けさせた手紙。
あんな内容の手紙を見せられたら、絶対に飛影は躯の下へ飛んでくる。
まして、蔵馬が今日躯の下へ来ていると知ったら尚更……。
……本気じゃなかった。
でも……一瞬だけ本気になった。
今でも手に残る、妖気の渦。
飛影が踏み込んでくるのが、後一歩遅かったら……きっとやっていただろう。
しかし、それも今はよかったと思う。
より、飛影に現実味が増したと思うから。
実際現実になりかけていたのだ。
いくら本人が見ていなくても、躯の気配からして察してくれたはず。
これが……目的になってくれれば。
生きる目的……守ること。
死ぬまでの目的になるはずだ。
失わないためには、ずっとそうしなければならない……。
「何でもいい。生きる目的を持ってくれ……生きていてくれるだけで…俺はいいから」
力にはなれないから。
せめて、生きる目的を。
例え自分が悪であっても……いや、もう既に悪なのかもしれない。
嫉妬の炎はおさまっただけ。
消えてなどいない。
いつ燃え上がり、いつまた同じことをするかなど……分からないのだから。
ふいに手にした紙に目をやる。
蔵馬に見られないため、取り上げておいたもの。
シワだらけの紙に書かれた、僅か4つの文字。
・・・蔵馬、殺ス・・・
終
〜作者の戯れ言〜
飛影くんを思う躯さんを書きたかったんですが…。
本人、ほとんど出てきませんね。
すいません、飛影くんファンの方…。
蔵馬さんと躯さんって話してるシーン、アニメにも漫画にもないけど、どんな仲なんでしょうね?
接点って飛影くんしかないし。
お互い、好きか嫌いかもよく分からないですし。
以前蔵馬さんは「躯の恐ろしさを」とは言ってましたが、今となってはどうなのか…。
二人の口調がちょっと難しかったです。
喋ってるシーンがない分、どういう雰囲気で喋ればいいのかと……なので、蔵馬さん、敬語タメ口ごちゃまぜです(おい)
それにしても、男に嫉妬してどうするんですか、躯さん…。
あの二人はただの仲間で友達で兄弟ですよ(最後の一つ、ちょっと違うだろ…)
誕生日プレゼントなんてもらったのは、後にも先にも貴女だけなんですよー。