<運命のサイコロ> 4

 

 

 

「……最も、だからこそ、困ることもあるけど」
「え? 何か言ったかい?」
「何でもないよ。そろそろ帰った方がいいんじゃないか? 明日は仕事だろう?」
「ああ、そうだった! 久々の仕事だった! そんじゃね! 蔵馬!」

ぴゅ〜っと、窓から飛んでいってしまうぼたんを見送る蔵馬。

 

完全に見えなくなってから、ふうっとため息をついた。

「だからこそ、困ることもあるんだよ。まもるべきものがあるからこそ、今は放置されているに過ぎないってこと」

 

そう。
まもるべきものがある以上、彼らは動かないと思われている。
まもるべきものがある以上、他のものに手を出すことはないと思われている。

だからこそ、誰もそれに手を出さない。

けれど、それが失われたら?
何も持たない彼になったら?

 

幽助はいい。
寿命は螢子と同じくらいだろうし、子供がいる。
例え螢子が先に死んだとしても、子供を大切にしていくだろう。
そして、いつかは子供より先に死んで、子供によって丁寧に送られる……。

 

だが、蔵馬は違う。
彼は結婚もしていないし、子供も当然いない。
もちろん、現段階では…の話だが。
しかし、もしもこれ以降も、出来なければ……家族がいなくなった時、彼はどうするだろうか? と、誰もが思うはず。

弟の秀一に子孫が出来れば、多分大丈夫だ。
しかし、万が一出来なければ?
何も持たない彼は、一体どう生きる?

 

他に類を見ない、知略知慮。
滅びぬ身体。
限りなく強くなっていく力。

それこそ、世界の脅威になるのではないだろうか?

そのことに世界が気付いた時、自分は……どうなるのだろう?

 

 

「……さて、どうするかな……まあ、俺は『王様』じゃないけどね……」

 

零れたような言葉が、夜空に消えた。

 

 

 

 

 

<後書・連載日記執筆時>

何か……シリアスっていうか、ダークっていうか。
最初でいきなりこれか? というツッコミあるでしょうが、すいません!

蔵馬さんたちが読んでた漫画は、少年ガンガンに連載中です。
誰も悪くないのに、誰もが平和を望んでいるはずなのに、誰もが傷ついていくという、すごく可哀想なお話……でも大好きです。

特にブリジット姐さんが。

漫画とか小説の女の子キャラで「これだ!」という人は、実は私、あんまりいないのですが…。
可愛い系・健気系・儚げ系もまあいいかなとは思うけど、「この子が出てるから見よう!」というほど好きでもないんで。
かっこいい美人な姐さんの方が……でもそういう人って、ちょっとしたことで、ただの高慢な女性になっちゃうから、なかなかドンピシャってわけにはいかなくて…(男の好みも五月蠅いが、女の好みも五月蠅い私…/笑)

だから、一番好きな女性キャラは静流さんだけど、二番目はブリジット姐さんです。
美人でかっこよくて、頭よくて、統率力あって、とにかくいい!

ってか、あのお話、一番可哀想なのは、王様じゃなくて、姐さんなんじゃ……。
10歳で親に捨てられて、引き取られたけど、またその後捨てられて、しかも傷つけられて。
死ぬに死ねないのは、王様と同じだったわけだし。
誤解で、ずっと王様も妹も憎み続けていて……誤解が解けても、それは彼女にとって、後悔の嵐で。
血族はいたけど、でも心は結局王様と同じように孤独だったのでは……(う〜ん、最後どうなるかな、あの話…)
多分、この後どういう展開になろうとも、姐さんは王様とは一緒にいられないんでしょうし(王様もそう言ってたし)

話戻しますが、読んでいくうちに、「もし蔵馬さんが読んだら…」と思って、書いてみました。
卓越した知略と力、太陽にも勝てる身体を持ったヴァンパイア。
そんな彼が大切な人を見つけたことによる悲劇……。
話の中では出しませんでしたけれど、千年前に突きつけられた言葉が、すごくジ〜ンと…。
大切だからこそ、離れるべきだったと告げられた彼を見て、蔵馬さん、本当はどう思ったのでしょう……。
他にまもるべきものがない彼は、王様とは違いますけれどね。

ってことで、お勧め漫画ですよ!(つまりこれが言いたかった…)

 

 

<後書・再録時>

遅くなりましたが、再録しました。
丁度、もうすぐ発売ので、漫画「ヴァンパイア十字界」最終回を迎えられるので、その前に…と思いまして。

さて、最終回どうなるのでしょうか。
現時点ではもう世界レベルの問題はなさそうで…。
後は王様とあの子の最後の対決。
何だかどちらが勝っても後味悪くなりそうですけれど…どちらも生き延びる道は残されていないんでしょうかね…。