<絆> 4

 

 

 

「……どうした?」

しばらくの沈黙の後、黄泉が無言であることを怪訝に思ったらしい蔵馬が問いかけてきた。

 

「言いたいことでもあるなら、言え」
「……何故…助けた」
「?」
「何故と言われても……」

黄泉の問いかけに、蔵馬はしばし黙ったが、首をかしげながら、

「言われてみれば……何故だろうな? 幽助や飛影だったら、仲間だからと言い切れるけど。お前にそれを言うのは、おかしいかもしれないしな……」
「……」

 

「お前と俺…一体何なんだろうな…」
「……さあな」

本気で分からないらしく、真剣に悩む蔵馬。
何故助けたか…ということもあるが、今の自分と黄泉は、一体何に当たるのか…。

それは黄泉も知りたかったこと。
自分自身、よく分からないから。

 

 

純粋の妖狐だった時は、『仲間』もしくは『上官』。
そして、最後には『裏切り者』。

人間となった頃には、『配下』。
あの時は『仲間』ではなくなっていた。
まあ、当たり前だが。
そして、また最後には『裏切り者』。

トーナメントが開催された頃には、『戦友』…とでも言うのだろうか?

 

しかし今は……どれにも当たらない。

『上官』や『配下』などとは無縁だし、まして『裏切り者』など、むしろ正反対だろう。
空腹のために戦えなくなった自分には『戦友』などとは呼べないだろうし。
『仲間』というのは、さっき蔵馬が半分否定したばかり。

 

 

一体、蔵馬にとって、自分は何なのだろうか?

自分にとって、蔵馬は何なのだろうか?

 

 

 

 

「でもまあ……」

ふいに蔵馬が疑問符のとんだ言葉以外を発した。

 

「お前の死に様なんか見たくない」
「……」

仲間、戦友、他の何でもない……何一つ、答えにはなっていない言葉。
答えを見つけ出せない……その結果なのかもしれない。
しかし、蔵馬は淡々と続けた。

 

「魔族大覚醒遺伝した幽助と違って、融合しているだけの俺の身体はこれ以上妖化しないから、血肉は人間として扱えるだろう。これからは死にかける前に呼べ。血くらいなら、貧血にならない程度なら、いつでもやれる。肉はたまにしとけ。人間の身体は治りが遅いからな」

そう言った彼の言葉は、何処かいつもよりも穏やかだった。
ぴりぴりとした気配がない。
浦飯や飛影に対してのような雰囲気ではなかったが……いつもの自分に対しての言葉より、幾分優しかった。

 

これはそう……裏切りや人質などのわだかまりのなかった、あの頃。
まだ若かった、あの頃のような……。

 

 

 

 

……ふいに蔵馬が立ち上がった。

用事もすんだわけだし、帰るのかと、内心がっかりしていたが。
蔵馬は数歩歩いただけで、洞窟の入り口の方へ向かったわけではなかった。
手近な岩壁にもたれかかるようにして座り、髪の毛から植物を取り出して、

 

「泊まらせてもらう」

と言って、平たい草の葉を巨大にし、毛布を作って、ひっかぶった。
ぽかんっとしている黄泉には構わず、

「ちゃんとした家くらい作ったらどうだ。洞窟で寝起きなんて、不健康だぞ」

何とも勝手な言葉を最後に、あっさりと寝入ってしまったのだ。
左手をさりげなく庇い、右手に薔薇を持って、いつでも戦闘態勢に入れるようにしているところなど、彼らしいが。

 

 

「……」

すーすーと寝息を立てている蔵馬に、苦笑する黄泉。
目が見えていたら、まず妖狐の頃には見られなかった蔵馬の寝顔を拝めたものだが……盲目になって以来、思えば初めて「目が見えたら」と今思った。

 

実のところ、目が見えなくなっても、困ることなどあんまりなかった。
元々、視力が優れていたわけではないから、嗅覚や聴覚だけで戦うのもすぐに慣れた。

もちろん、光を失って強くなれた……というのが嘘だったわけではない。
蔵馬に裏切られたということは、あの妖怪を捕らえる前から、察していた。
仲間の救助が来なかった時点で、そんなことを悟るのは簡単だった。

 

だから……蔵馬に裏切られたという事実が、黄泉を強くしたのだ。

それが蔵馬の寝顔を見たいがために、視力を望むなど。
とても皮肉なことではないか。

 

 

「奇妙な関係だな…」

そっと呟いてから、黄泉も再び横になった。
いくら飯を喰ったからといって、完全回復までにはまだ時間がかかるだろう。
今は寝るのが一番。

蔵馬が傍にいる以上、敵の目を気にすることなく、寝入れる。
そこまで考えた上で、蔵馬はここに泊まってくれているのだろう。

 

 

 

 

……仲間であったが、裏切られ。

仲間とも言える関係を築いた後、また裏切られ。

そして何とも言えぬ立場に、今はいる。

 

なのに、自身を傷つけてまで、救ってくれた……。

 

 

奇妙な関係。

他の誰にも存在しない。

 

本当に変わった、無二の絆。

 

 

しかし、それすらも今は心地良いと、深い眠りに落ちながら、黄泉はそっと思った……。

 

 

 

 

〜作者の戯れ言〜

黄泉と蔵馬さんの関係、一体どう言えばいいんでしょうね?
仲間でもなく、敵でもなく。
戦友とも微妙に違うような感じですが…。

でもお互い、本気で嫌ってはいないかと。
アニメでは結構和解していたみたいですが、原作では幽助くんとの会見以来、一度も言葉を交わしていないようなので…。
(いちおうこれは原作を重視して書いてみました…微妙ですが)

霊界・魔界・人間界、三つの世界が一つになった時、食人鬼の類は邪魔…雷禅が言ってましたね。
黄泉が人間以外を食べれるのか食べれないのかは、はっきりしてない気もしますが、いちおう他は無理ってことで。
躯さんは人間以外受け付けないって言ってたけど、体質変わったってことで……人間でも子供できたら、食べ物の好み変わるらしいんで(←作者の母談/笑)

人間しか食べれない妖怪にとって、人間界との友好って、いわば死刑宣告ですよね……そんなとき、黄泉だったらどうなつのかな〜と思って書いてみました。
ちなみに蔵馬さんの身体が人間っていうのは、鴉のトリートメント話から(白虎の台詞は無視ってことで…/おい)