BABY PANIC> 2

 

 

「あーあー!!(きづけー! くそっ、人間って一体いくつくらいから、喋れるんだよ!!)」
「だーだ(確か大体一歳くらい……)」
「あーあー!!(じゃあ、俺たち喋れても、いい頃じゃねえのか!?)」
「だーだー、だー。だー!!(個人差だろ。くそっ、せめて二歳だったら、喋れるのによ! それより、蔵馬ー!!)」
「あーあー! あ?(普段はいらねえところも、気付くくせにー! …ん? 何だ、この音…)」

この壊れたコンピュータか電化製品のような音は……。
ついさっき子供にされたせいだろう、その音に敏感になっていた幽助たちは、声の限り叫んだ。

「うー! うー!(あぶない! 逃げろ、蔵馬!)」
「だー!! だー!!(馬鹿野郎!! 早くー!!)」
「あー!!! あー!!(パイパーだ!! 子供になっちまうー!!)」

 

「え、ちょっとそんなに泣かないでよ。聞こえな…」

 

 

ボンッ!!

 

 

ドテッ…

 

一瞬にして、煙に包まれた蔵馬。
当然、彼に抱かれていたのだから、飛影は弾みで地面に落下。
幸い腰の辺りから落ちたため、痛みは感じなかったが(多分頭から落ちても平気だろう。そうでなければ、氷河の国から落ちて、生きているわけがないし…)。

 

しかし、幽助も桑原も……飛影の心配はまるでしていなかった。
彼ならこれくらい平気だろうという気持ちが根本にあったからこそなのかもしれないが……。

目の前で煙に包まれてしまった蔵馬。
止められなかった自分に対しても、呆然とするしかなく、聞こえてきた声に反論するヒマもなかった。

 

「ホーッホホッホッ!! ついにやったわね!! あの狐野郎! さあ、煙がおさまったら、待っていなさい! いたぶり殺してあげるから!!」

嫌な笑い声が森に木霊する中。
段々とおさまっていく白い煙。

その中から現れたのは……。

 

 

短いが、美しく輝く赤い髪。
大きく開かれた、澄んだ緑色の瞳。
服装はおそらく当時のものなのだろう、オーバーオールのようなものを着ている。
幽助たちの予想通り、年齢は四歳ほどか……。

あどけない表情が可愛らしく、一見すると少女のような美少年だった。

 

「ホーッホホッホッ!! 生意気な狐のガキめ!! 今、トドメを刺してやろう!!」

「あ、あー!(や、やばい!!)」
「だーだー!! だ、だー!(蔵馬、逃げろ!! つ、ついでに俺たちも連れてな!!)」
「うー(そういう問題か…)」

だが、実際そうしてもらわなければ、多分この場で殺されるのは、自分たちだろう。
やけっぱちになって、こっちを殺すのは明白。
でもって、今の自分たちでは、あのバカにさえ勝てないのは自明の理……。

相手が誰であっても、殺されるということは、あんまり好きではないが、しかし万一殺されるというなら、相手を選びたいもの。
そしてこのバカは最も選びたくない相手である。
霊界に行ったところで、「あんなヤツに負けたのか、お前等バカか…」とコエンマにバカにされるのが、オチだろうし……。

 

 

 

 

「さあ、まずはその首をはねてやろうじゃないの!!」

鋭い爪を伸ばして、幼い蔵馬に襲いかかるパイパー。
だが、蔵馬はそれを避けようともせず、ただじっと見ていた。

「あー!!(ば、ばか!! なにやってんだ!!)」
「だー!(早く逃げろってー!)」
「うー!(来るぞ!!)」

ほぼ無意識のうちに、蔵馬の足に再びしがみつく幽助と桑原。
二人がしがみついているのだから、飛影にはくっつく場所がない。
一番小柄なのだから、二人を乗り越えて……というのも、不可能だし。

だが、次の瞬間、飛影の身体は、蔵馬の手に触れていた。
正確には手だけでなく、胴体にも……そう、蔵馬が再び抱き上げたのである。

 

 

「な、何っ!?」

突然、パイパーの視界から蔵馬が赤ん坊たちごと消えたことで、体勢を崩すパイパー。
そのまま地面にめり込んでしまったが、もちろんそれを同情する者はいなかった。

「……噂には聞いていたけど、ここまで間抜けとはね」

とんっとパイパーの背後に着地した蔵馬。
腕にはしっかりと飛影を抱え、足には桑原と幽助がしがみついたままである。
だが、彼はそれをものともせず、動いている。
四歳児には、一歳程度の子供でも重いはずなのだが……。

 

 

「き、貴様! 何故…」

「一度引っかかった以上、それに対しての防御策くらい、常に張っておくさ。相手が死んでいない限りね。まあ俺の身体は子供になっても、同じ身体能力を出せるというだけだけど」
「う゛ぞっ…」

蒼白になるパイパー。
透けた身体が、みるみる青くなり、震える指からラッパが落ちた。
桑原を掴まらせたまま、それを踏み潰す蔵馬。
その顔には僅かに妖狐だった頃の冷徹さが垣間見え、妖しいまでの美しさを見せていた……。

 

「…あー(…流石、蔵馬…)」
「だーだー(心配する必要、なかったんじゃねえか……)」
「……(……)」

とんだ取り越し苦労をしたと、がっかりする一同。

 

だが、次の瞬間はっとした。
ということは、自分たちがここにいることは、別の意味で危険なのではなかろうか?

いずれにせよ、元の姿にしてもらうためには、蔵馬に会わねばならないだろうが、しかしこんなに早く会う必要はそれほどなかったはずである。
何日間か赤ん坊のままで、蔵馬の怒りが冷めるのを見計らった方がよかったのでは……。

 

ようやくそのことに気づき、おそるおそる蔵馬から離れる幽助と桑原。
飛影に至っては、離れることすら出来ないが、ここで暴れれば、余計に後が怖いことを知っているため、とりあえず冷や汗をかきながらも、大人しくしていた。

 

 

そんな彼らにはお構いなく、蔵馬はまず目の前にいる道化師の始末を考えていた。

「さて、どうやって料理してやろうかな…」
「くっ…覚えてろー!!」

風よりも音よりも光よりも早く逃げるパイパー。
相変わらず、逃げ足だけは速い男である……。

いくら普段と同じ能力とはいえ、流石に追えない蔵馬。
というより、追う気も失せたらしい。

 

「まあ、いいか。あいつは分身らしいから、倒しても無駄だろうし」
「あー?(え…何で、蔵馬が知ってんだ?? ガキになってたのに…)」
「こんなこともあろうかと、あの文献全部訳しておいてよかった。読みにくかったけど」
「だー(あ、なるほど)」

ぽんっと膝を打つ桑原。
幽助も同じく隣で納得の声を発していた。
だが……そんな声を発する前に、逃げた方がよかっただろう。
最もこの身体では到底逃げ切れまいが……。

 

 

 

 

「ということは、やっぱり……飛影かな、この子は。目つきがそっくりだし」

ギクッ

「そっちは幽助と桑原くんだよね? その勝ち気な瞳と、くるくる頭は」

ギクギクッ

「昼間はどうも。本棚倒して、机壊して、植物細切れにして、窓ガラス割って、羽毛布団ダメにしてくれて〜」

ギクギクギクッ

 

こそ〜っと逃げだそうとするが、無駄なあがきである。
飛影はもはや観念したのか、動こうともしなかった。
いや、動きたくても動けなかったろう。
蔵馬ががっちりと片手で抱えていたのだから……。

そして、もう片方の手でしっかりと幽助の襟首を掴み、桑原は長すぎたために引きずっていたズボンの裾を、くいっと足先で踏んで押さえた。

 

ダラダラを汗をかき、パイパー以上に蒼白になりながらも、振り返る幽助たち。
蔵馬は意外にも笑顔でいたが、もちろん頭には青筋マークの入った笑みである……。
これは、生死に関わることでない限り、蔵馬が一番怒っている時の表情といえよう……。

「気にすることないよ〜。しばらくしたら元に戻るだろうから、お仕置きはその後でね」
「あーあー!(本当か! 元に戻れるのか!?)」

怒られることよりも、元に戻れるという言葉に反応したらしい幽助。
後が怖い気もするが、やはり元の姿に戻りたい。
そうすれば、逃げることも出来るかも知れないし!!(いや、無理だろう…)

 

がしっと蔵馬の腕にしがみつき、その方法を心待ちにしたのだが……。

 

 

「後十六〜七年もすれば、大丈夫! ちゃんと戻るよ。お仕置きするから、ちゃんと覚えててね♪」

 

「あー!!(あのなー!!)」

 

 

 

 

〜作者の戯れ言〜

これは管理人が連載小説で以前連載していた『子守りは大変』の続編です。
ちょっと長いですが、お暇な方はどうぞ!
ただし蔵馬さんのイメージが大幅に崩れる恐れがありますので、ご注意を……。

今度は逆バージョンで幽助くんたちが赤ちゃんに。
ただし中身は今までのままで……って、あのままほおっておいて、いいんですかね??(笑)
気が向いたら、続編など書きますのでー!