<BLACK RAINBOW> 2

 

 

「まさか再び会うことになろうとはな。しかもこんな形で……」
「予想しえなかったな」

再び魔界の穴を見つめながら言う舜潤と…あの時の狐。
十八年後には狐の姿でもなく、妖狐の姿でもなく対面しているのは、少し妙な気分だった。
実際、舜潤は妖狐の姿の蔵馬を見たことはない。
浦飯幽助抹殺の際に魔界から戻ってきた時、彼は既に南野秀一の姿に戻っていたから……。

 

「あの時はただの獲物だったんだがな」
「それは俺も同じだ。単なる新米隊員だった」
「その新米に殺されたんだろうが」
「殺ろうと思えば出来たぞ。相打ちでならな。やってほしかったか?」
「……遠慮しておく」

不適な笑みを浮かべて言う蔵馬に、少しひきつりながら答える舜潤。
しかし、笑みに顔をこわばらせたわけではなかった。
深手を負っている時には気がつかなかったが……これほどまで美しい魂を持っている男だとは思わなかった。

特防隊として、数多くの妖怪の魂を狩ってきたせいだろうか?
彼には魂の色が何となく見えている。

いつも狩る妖怪の魂は、とても汚い。
悪に塗られていて、出来れば触れたくない、近づきたくないものばかり。

 

だが、妖狐蔵馬は違っていた。
魔界に悪名を響かせているというのに……。
彼の魂は驚くほど美しかった。

狐として狩った時は、見るヒマなどなかったから、どんな色をしていたのかは分からない。
しかし……とにかく今の彼は綺麗だった。
一体何が彼をそうさせているのか……。

 

 

 

「どうせまた帰ってくるんだろう」
「多分ね。俺は幽助や飛影みたいに長期滞在する予定はないから。一ヶ月したら戻る予定」
「随分と短いな」
「あまり長く家を空けられないからな」

くすっと笑って言う蔵馬。
先程の不敵な笑みとは少し違った。
魂が少し明るみを帯びたような気がした。
まるで……人間のように。

「……変わったものだな」
「お前もな」
「俺も?」
「ああ。あの時は獲物を狩りたい、とにかく戦いたいって顔をしていた。けど、今は違う。何か楽しみなことでもあるのか?」
「……ああ」

 

言われて初めて気がついた。
自分が前ほど戦いを望んでいないことを……。
そういえばここ数ヶ月、妖狐蔵馬を追いつめた時の自慢話もしていない。
する気がなかった。
何故かは分からなかったが……。

妖狐蔵馬の言うとおりかもしれない。
今の自分には、昔のことよりもずっと楽しみにしていることがある。

浦飯幽助。
彼が魔界でどう生きるのか。
どんな戦いをするのか……とても興味があった。
そして、この妖狐蔵馬にも……。

 

 

あの時は獲物だった。
だが、今は違う。

仲間……ではない。
むしろ敵というべきなのだろう。

だが、敵ではなかった。
敵とは思いたくなかった。
味方でも仲間でもなくていい。
ただ……戦いたくはなかった。
もう二度と……。

たった今から魔界の穴に入り、霊界と魔界が戦争を起こせば、必然的に敵になる相手なのに……。

複雑な思いはおそらく自分だけではない。
そう何となく感じていた。
妖狐蔵馬の横顔がそれを物語っているようで……。

 

 

「……色々な」
「そうか……さてと、もう行かないと」

広がりきった魔界の穴に向かって歩いていく蔵馬。
後ろで桑原やぼたんが何やら叫んでいるが、何も言わずに進んでいく。
と、さっきまで横におり、後ろにいるはずの舜潤が魔界の穴のすぐ横に立った。
彼ならば出来ない芸当ではない。
蔵馬は何も言わずに、何も触れずに、魔界の穴の前までやってきた。

 

暗く深い魔界の穴。
それはまるで黒い虹のようだった。

古来より、虹は空の架け橋だと言われてきている。
ならば、これは黒い虹だ。

虹の麓には宝があるとも言われている。
しかし、この虹にはそんなものはなさそうだった……。

 

意を決し入ろうとした時、舜潤が小声で言った。

「……魔界で何があろうと、俺に手出しできる範囲ではないだろう。だが、協力出来る範囲でなら、してやるぞ」
「……それはどうも」

それだけ言うと、蔵馬は魔界の穴に飛び込んだ。
入り際、僅かに振り向いて、僅かに微笑みかけて……。

 

 

 

あれから数ヶ月後。
蔵馬はいったん魔界から人間界へ帰っていた。
数ヶ月後に迎えるであろう事態に備え、自分がついている黄泉が有利になるべく、戦力を育てるために。
本当の目的は別にあったが……。

平日は学校に行っているため、彼がその戦力たち…かつて暗黒武術会で戦った強豪たち六人の元を訪れるのは、休日に限られていた。
この日曜日は、偶然にもコエンマも来ていた。
蔵馬は沈黙を貫き、彼にも詳しいことは話していなかった。
それでも彼は協力的で、色々と蔵馬の力になってくれる。

そして最大の難関である部分も、協力してくれると言ってくれた…。

 

「六人が魔界へ行く時はワシにまかせろ。特防隊も大竹よりは今の隊長の方が話が分かる」
「……」

視線は送ったが、無言のまま訓練場の中へ入る蔵馬。
外見によらずこの訓練場は広く、地下深い位置にある。
当然そこまでの廊下も長かった。

 

そこを歩いている間……蔵馬の頭にあったのは一つだった。

今の隊長が誰なのか。
実のところ、蔵馬は知らなかった。
舜潤が一番の古株だとは知っていても、隊長がどういう基準で選ばれるのかは知らないのだから……。

だが、今のコエンマの発言で分かった。

 

 

「……話が分かる、か。やっぱり変わったな……」

 

それでもいいと思う。
人は変わるもの……そして自分も……。

いずれまた変わるのだろう。
これが永遠ではない。

もしかしたら、また戦う日が来るかもしれない。
敵として、獲物として……。

 

だが、しばらくは来て欲しくなかった。
永遠は無理でも、もう少しだけ……。

 

せめて、もう一度。
今度はゆっくり話がしたかった。
昔のこともひっくるめて…。
そして二人して…いや、おそらくは大勢の者が気にしているであろう、あいつのことを……。

次へ魔界へ行く時……再び、黒い虹が開かれる時、出来るだろうか?
そんなヒマはないかもしれない。
だが、七人も一緒に行くのだから、可能性として全くないとは言い切れないだろう…。

 

黒い虹。
暗黒の架け橋。

今はそれが少し待ち遠しかった……。

 

 

 

 

〜作者の戯れ言〜

霊界特別防衛隊・舜潤、彼が妖狐の蔵馬さんを追いつめた張本人であることは有名ですね。
でも一対一で蔵馬さん本当に負けるかな〜?と思って、書いてみました。
いやむしろ一対一では絶対に負けてほしくなかったというのが、一番の理由なんですが…。
何か微妙な終わり方ですね(汗)

というか…7月はシリアスも書こう!としてたら、ギャグ一直線小説が一つもありませんね(「百花繚乱」はいちおうギャグかな?微妙?)
アンケートでギャグ小説の方が人気あるらしいと分かったのに、何でシリアスに持って行こうとするのか…。
(理由:50のお題は既に全話内容決定してるから…。多分、ギャグとシリアス半分ずつくらいになると思います)
8月はどちらも書けるように頑張りますー(出来るかな…)