<その中身> 2
「ふんふん。なるほどなるほど」
「何が、なるほどなんですか? コエンマさま」
ここは霊界。
一仕事を終え、審判の門へ戻ってきたぼたんは、廊下で鬼から頼まれた書類をコエンマに届けに、彼の部屋を訪れた。
いつものように普通に入っていったが、少し驚いた。
コエンマは珍しくデスクにかじりつき、何やらノートにデータをまとめているようなのである。
普段ならば、はんこを押すにも飽きて、テレビでも見ているのに…。
「ああ、ぼたんか。いや、ちょっと占いを…」
「占い〜?」
真面目に仕事をしているのかと思えば……ただ遊んでいるだけらしい。
これがあやめであれば、ため息をつきながら軽く叱ったりするのだろうが。
ぼたんは、コエンマ同様、遊び好きでお祭り好き。
当然占い等にも興味があり、書類を置くと、コエンマのノートをのぞき込みながら、尋ねた。
「何のですか?」
「血液型占いだ。幽助たちのな」
「血液型?? え、でも幽助たちの血液型、コエンマさま知ってるんですか?」
「知らん。だから占っとる」
「はい?」
何を言っているのか、さっぱり分からず、きょとんっとするぼたん。
普通血液型占いといえば、相手の血液型が分かっているからこそ、出来る占いではないのだろうか?
それにより相性等を占うもののはず……だが、コエンマが今やっている占いは、少々違うものらしい。
「実は人間界のとあるテレビで、血液型と脳の働きとやらを見てな。血液型によって、同じことを言われても行動がバラバラだというんで……1つ試してみようと思ってな」
「へ〜。それどうやるんですか?」
興味津々に、目を輝かせながら言うぼたん。
コエンマもこういう風に乗ってくれる者がいた方が、より楽しくなる。
満足げに頷いて、ノートを見やすいように広げた。
「1つ箱を用意し、『絶対に開けるな』と言われた場合、その後にどういう行動をとるかで、検証するものだ。これがなかなか面白くてな」
「へ〜。幽助たちはどうしたんですか?」
「ふむ。幽助は開けたいが、最終的には触るだけで、開けられない……O型だな。他人の表情や仕草なんかを敏感に感じて、まとめ役になれる」
「……幽助、そんなこと考えてますっけ?」
「考えとらん。だから本能的にやっとるんだろう。魔界統一トーナメントでも、魔界中の妖怪引っ張って出来とったが、本人はまとめようなんて気、これっぽっちもなかったろうからな。本能で出来るのが、O型ってことだ」
「なるほど〜」
「しかし、まあ裏を返せば、今さえよければ後はどうなろうと関係ないという、大雑把な性格なわけだな」
褒めているのか、貶しているのか…。
しかし、あまり褒めているとは思えない。
とどのつまり言いたいことは、一番最後なのだろうし。
考えているようで何も考えていない、それが周囲にとって良い行動になっているものの、本人はまるで気付いていない鈍感野郎。
ついでに言えば、大雑把…要約すれば、そんなところなのだろうから…。
「他のみんなはどうなんです?」
「えっとな。桑原はA型だ。箱を見ているだけで、決して開けようとはしない。中身は気になるらしいがな」
「ふ〜ん。まあ確かに桑ちゃん、デリケートなところありますもんね。雪菜ちゃんの前とかでは、すっごい純情だし」
「ま、神経質なところもあるしな〜。幽助が魔界で親父探すって言った時も、慌てとったの、あいつだけだったし」
それはまた別の問題のような気もするが……。
しかも、これは褒めている貶しているを考える余裕もなく、貶しているとしか思えない。
いちおうぼたんはフォローを入れているつもりだろうが、あまりフォローになっていないようだし…。
「で、飛影は…速攻で開けたから、ABだな」
「妖怪に血液型ってあるんですか…」
「細かいことを気にするな! しかし当たっとるだろ!」
「そうですか〜? 飛影は全然二面性なんてないんじゃ…」
「変人だろうが。ワケわからんところもあるし、当たっとる」
「本人に言ったら、斬られますよ〜」
そりゃ、斬られるだろう。
確かに普通の人間と比較すれば、変わっている面もあるにはあるが、あくまで彼は妖怪なのだし。
まあ他の血液型に比べれば、AB型が一番近いかもしれない。
蔵馬と躯以外には、ワケの分からないヤツと言われることも少なくないだろうから…。
「で、蔵馬だが……B型なんだな。箱に興味も示さない」
「B型? 意外ですね。B型って基本的に気分屋で自己中なんでしょ? 繊細なA型とか、大らかなO型とか、使い分け出来るAB型とか言えば、納得いきますけど」
「ああ。B型は理性より感情で行動するらしいからな」
「それって、どっちかっていうと、幽助たちの方じゃ…」
ぼたんが悩むのも無理はないだろう。
蔵馬が理性で行動しなければ、誰が理性で行動しているのだろうか?
少なくとも幽助や桑原ではないはずである。
いちおうA型は理性で行動するらしいが……桑原は別格ということなのか、それとも占いが外れているのか。
B型にしても、人より先のことを考えるという意味では、蔵馬にも適合している。
だが、彼は間違っても感情では動かないだろう。
かなり怒っている場合を除けば……。
いずれにせよ、あまりこの占いは当たらないらしい。
しかし、コエンマは妙に盛り上がっていて、勝手に蔵馬はB型と決定し…、
「ようするに、根が自己中ってことだな!」
と、大声で豪語してしまったのである。
そう……背後に人の気配を感じることもなく、高らかに大笑いしながら……。
「ほお…誰の根が自己中だと?」
「だから、蔵馬が……げっ、蔵馬!?」
ずざああっっと、転がるように後ずさりするコエンマ。
しかし、次の瞬間には長い後れ毛がつくくらい彼は急接近してきた。
そう……飛影が箱を開けた直後から、霊界テレビに映っていなかったので、少々不思議に思っていたものの、あまり気にとめていなかった彼は、いつの間にか霊界に来ていたのである。
しかも最悪なことに、いつの間にか、コエンマの背後に立っていたのだ……。
「い、いつからそこに…」
「さっきからいましたよ……それで? 誰が自己中だって言うんですか?」
「え、だからその……た、単なる占いだ! 当たるも八卦! 当たらぬも八卦だろう!」
「さっきの言い分では、当たっているとしか聞きとれなかったんですがね…」
「えっと、いやそのな……あ、あはは…」
真っ青になりながら、引きつった笑顔で、壁へと追いやられていくコエンマ。
幽助たちの前では演技であったが、今は違う。
本当に殺されるかもしれない……その恐怖は半端でなかった。
これが幽助や桑原ならば、痛いだろうが本当の意味では死なないだろうと安心出来る。
が、怒りの蔵馬にその理屈は通用しない……。
いや、殺されなかったとしても、それ以上の痛苦を与えられることは必須……。
「さてと。どう料理してあげましょうか…」
「ひ〜〜っ!!」
……その後、コエンマがどうなったかは、読者の想像にゆだねることとしよう。
とりあえず、その日の夕方には、蔵馬は帰宅し、まだぎゃーぎゃー叫んでいた幽助たちを家に帰してから、ベッドに横になってため息をついていた。
アホらしいことで一日をつぶされたが、過ぎたことを言っても仕方がない。
聞き捨てならないことについての報復はきちんっと行ったのだし。
「(それにしても、コエンマも暇人だな。あんな血液型占い、確実に当たるわけないじゃないか……あんな見え見えのからくり、すぐに気付くと思わなかったのかな?)」
ふうっと軽く息を吐きながら、思う蔵馬。
そう……コエンマは、演技に演技を重ね、必死に重大事件を装ってみたつもりである。
箱もあえて、ボロにし、中身を見たくなる衝動にかられるようにしたはずだった。
しかし……相手はあの蔵馬である。
占いの結果よりもはるかに高い確率で、コエンマの作戦を知っていたと考えるべきではないだろうか?
コエンマのイタヅラに引っかかってやるのも面倒だと、箱などほおっていくのではないだろうか?
そうして結果が出る頃に、落とし前をつけにやってくるのではなかろうか?
そのことに気づけなかったのが、コエンマの敗因…。
そして、蔵馬の真の血液型は、永遠に闇に葬られたのであった……。
終
〜作者の戯れ言〜
えっと、コエンマさまの見たという人間界のとある番組は「発掘!あ○あ○大辞典2」というものです。
確か2004年の4月あたりに放映された内容でした。
血液型占いって当たるんでしょうかね?
コエンマさまの言った通り、当たるも八卦、当たらぬも八卦でしょうが。
ちなみに管理人はAB型です。
箱、多分開けないとは思うんですけど(後が怖いから/笑)
まあ、「変」とか「変わってる」とかは、イヤというほど言われますから、そこらへんは当たっているかも知れませんけど。
蔵馬さんの血液型、多分AB型じゃないかなとは思ってます(自分と同じとかそういうのじゃなくて…)
とあるサイトさまで拝見した蔵馬さんのプロフィール研究を見て、「なるほどー!」と思って。
二重人格とかではない、自然な二面性があるし、人とは違う発想出来るし。
実際のところ、どうなんでしょうね?
冨樫先生、主要キャラのプロフィールも作ってほしかったですー!(魔界の扉編の敵さんたちはあるのに…)
<2007年 追記>
上記のとある番組、不正とか間違ったことをしたとかで、放送中止になりましたね。
例の時のが、正しかったのか正しくなかったのかは分かりませんが…。
ま、元々血液型性格占いなんて、当たるも八卦当たらぬも八卦ですから、このままにしておきます。
ご了承下さい。