<つくりかた。> 2
「武器のつくりかた??」
……本当に、直に聞きに来たらしい。
ページを超えただけで、あっさり蔵馬の家に到着している辺り、何という安易な…。
思い立ったが吉日というよりは、思い立ったら即行動の単純即決、多少考えなしのような気もするが…。
「どこが考えなしだっつーんだ!!」
「だから、幽助。さっきから誰に向かって言ってるのさ」
「知るか!とにかくうるせえんだよ!」
「……何の話?」
「あ、いや…」
流石に蔵馬には、ぼたんや桑原に対してのように、怒鳴る気にはなれない幽助。
振り回していた拳をおろし、本題に戻った。
「と、とりあえず。教えてくれねえか?」
「そうそう。何か気になっちゃって」
「あんまり深いところまでは、つっこまねえからさ。簡単でいいから、教えてくれよ」
「教えるって……そのまんまだよ。妖気送り込むだけ」
「それだけじゃねえだろ?ほら、他にもあるんじゃねえのか?」
「どういう意味だい?」
「だからさ…」
幽助たちは、先ほど色々討論し、他の妖怪の武器とは違う点など、自分たちが考えたことを蔵馬に告げた。
それが終わるまで、蔵馬は無言で彼らの意見を聞いていた。
感心するわけでもなく、さりとて呆れるわけでもなく、ごく自然に。
そして話が終わった時、髪の毛から一輪の薔薇を取り出して見せた。
「百聞は一見にしかずって言うからね。まあ、見ててよ」
「お、おう」
幽助たちに緊張が走る。
長年(?)謎に思っていたことが、ついに明らかにされるのだ。
見逃すまいと、眼を皿のようにして、食い入るように蔵馬の手元を見つめる。
その熱〜い視線を受けながらも、蔵馬はいつもと代わらぬ動きで、薔薇を振って見せた。
ヒュンっと小さく音がし、薔薇が一瞬にして鞭に代わる。
辺りには薔薇の花びらと共に、薔薇の香気が……。
……?
…………
……どうもいつもと代わらないような気がするのは、何故だろうか?
いやそれも道理。
本当に、いつもと全く代わっていないのだから……。
「分かった?」
けろっとした顔で、鞭を軽く上下させながら言う蔵馬。
しばらく緊張の糸が切れず、固まっていた幽助たち。
段々糸がほぐれてきたので、訝しげに蔵馬を見ながら口を開いた。
「……それ、全然答えになってねえ…」
「そうかな。だけど、どうせ説明しても分からないんじゃない?」
「やってみねえと分からねえじゃねえか!」
「せっかく聞きにきたんだから、教えとくれよ!!」
「出し惜しみするこたねえだろ!!」
「……そこまで言うならいいけど…」
ため息をつきながら、覚悟を決めたような表情をする蔵馬。
その面の裏にどういう意味が隠されていたのか……当然のことながら、幽助たちは全く見抜けなかった。
もしここで気付いていたならば、後々におそろしい体験をしなくてすんだものを……。
先ほど薔薇棘鞭刃にした薔薇を、ひとまず蔵馬は元の薔薇に戻した。
変化させた薔薇の戻し方も聞かれるかと思ったが、幽助たちはそこまで疑問には思っていなかったらしい。
しばらく薔薇を見つめていた蔵馬に、じ〜っと視線を注ぎ続けていた。
「まず、最初に言っておくけど、この薔薇はただの薔薇だからね。花屋でも売ってるものだし、別に何の細工もしていない。魔界の植物ではないから」
「ああ、やっぱりそうか……なあ、少し話逸れるんだけどよ」
「何?」
「その薔薇……髪の中に入ってる時は、どうなってんだ?」
「?。普通だよ」
「いやだからさ。花の状態なのか、種なのかってことで…」
「花も蕾も種もあるよ。今出したのは、花だけど。そうでなかったら、妖気が使えない時に出せるわけないじゃないか」
「あ……」
言われてみれば、確かにそうである。
vs凍矢やvs鴉で、妖気が封じられた時…また尽きてしまい使えなくなった時も、蔵馬は髪から薔薇だけは取り出せていた。
もちろんシマネキ草も出してはいたが、あれが髪の毛からだったかは、はっきり見えなかったし、仮に髪からだったとしても、種くらいならば襟首辺りにでも隠せそうなものである。
だが……これだけ大きな薔薇の花。
しかも1輪や2輪ではない。
暗黒武術会が開催された首くくり島には、薔薇など咲いていなかったのだから、補充など出来なかったろう。
ということは、大会で使用した薔薇は、全て元から髪の中に持っていた…ということになる。
船の上で1輪、ガタスバルの回路に進入させたもので1輪、vs画魔で1輪、vs裏浦島で1輪、vs鴉で4輪……つまり、少なくとも8輪は持っていたはずである。
いくつかはリサイクル出来そうな薔薇もあるが、投げつけたり踏みつぶされた分は、とても元には戻らないだろう。
一体蔵馬の頭の中はどうなっているのか……。
「ところで、話戻していい?」
「あ、ああ。頼む」
「じゃあ順を追って説明するけど……ああ、そういえば君たち植物の生長の仕方って知ってる?」
「え、いやあんまり……」
「どの辺まで知ってる?分裂生長とか伸長生長は?」
「全然……」
「……中学でやってないのか?」
「授業聞いてると思うか?」
「……じゃあ、そこから始めるか…」
肩をすくめながら言う蔵馬。
理科の授業になりそうだなと思いつつ、そして多分途中から全然分からなくなるだろうなと思いつつ、話始めた。
「植物の生長っていうのはね。まず分裂生長とそれに続く伸長生長の二つの型の生長からなるんだ。分裂組織で分裂生長し、数の増えた細胞は、伸長域に達すると細胞容積を増大させる伸長生長にいきついて成熟する。それを応用させたのが、短い薔薇の茎を鞭に変化させる方法なんだ。植物が伸びるのは、もっぱら伸長生長だから、そっちの方だけどね。細胞容積の増大と水分吸収が原因となるんだけど、細胞壁は多糖類高分子やタンパク質からなってて、強固に固められているから、それを不可逆的伸展させる必要があって、その相互作用を複合させることによって、初めて植物は伸長生長することが出来る。これは妖気を送り込むことによって、作用を早めるだけなんだが、ただそれには植物の命ともいえる水が必要で、それは俺には出せない。だから、予め髪の中や袖口に別の水分を溜めておける植物を忍ばせて、そこから得るようにしてあるんだ……ここまで分かった?」
「……ああ」
本当は全っ然分かっていないが……。
だが、今のはあくまで薔薇の茎が伸びるということだけらしいので(というのを理解したのは、ぼたんだけで、残り2名はぼたんに耳打ちしてもらった)、先を聞くことにした。
「けどそれだけじゃ、ただ薔薇の茎を生長させただけに過ぎない。薔薇の先端部分の花びらは必要ないから…まあいちおう香気にするという意味では使うんだけどね。それにはまず花びらを散らす必要がある。ただ振っただけじゃ難しいから、これも妖気を使って。植物には高塩濃度条件に置くと死滅する性質があるんだが、それは自分よりも強い毒性の物質に触れたことと同じでね。俺の妖気を濃縮させれば、当然毒性の強いものになる。茎部分には伸長生長を早める意味で妖気を送り、先端部…つまり額の部分には高濃度の妖気を注ぐ。それによって額は死滅し、薔薇は足場をなくして、軽く振っただけで散っていく。もちろん俺の妖気の影響を若干受けているから、その香気は更に薫りを増している。ちなみに薔薇の状態に戻すのは、その逆で、通常環境に戻された薔薇が再生することになるんだ。蔓が茎に戻るのは、妖気が断たれたことによって、生長を妨げられ、引き戻されたからで……って聞いてる?幽助、桑原くん?」
「へ?あ、ああ……」
途中からあまり聞いていなかった……などとは、流石に言えない。
自分たちで教えて欲しいと言ったのだから……。
だが、まさかこんなに難し〜い話になろうとは。
理科の授業どころか、大学の講義のようになっている。
「……あのさ、それほど難しいことじゃないんだよ?幽助や桑原くんのも、大して変わらないじゃないか」
「は?」
「だから2人のは、何かに妖気を送り込むんじゃなくて、自分の身体で行っているわけだろ?霊気を一カ所に集中させるってことは、つまり精神を高めて、体内エネルギーの大半を身体にとって、最も霊気に集まりやすい場所へ送り込む。それがたまたま2人にとっては手だったんだろうけど。俺の場合は手の延長戦なだけだよ。霊気っていうのは、元々人間にとって当たり前のものだから、才能さえあれば深く考えずに扱えるだろうけど。ただ、強さを調整するとなれば話はまた別で、霊気の加減を脳裏で描いている、つまり想像力であり、剣の形を変えることは発想力の転換で……」
……親切丁寧に幽助や桑原の技のことまで、解説しだす蔵馬。
だが、幽助たちにとってこれは、有り難迷惑…というヤツでしかなかった。
「(そ、想像力?)」
「(発想の転換??)」
今まで無意識のうちに、ほぼ適当にやっていたことを、論理的に物理学的に言われても、何の事やらさっぱり分からない。
例えるならば、普段常人でも当たり前のようにやっている『歩く』という動作を、神経系から筋肉の動きやら電気信号やらで言われたようなものである。
普通の中学生でも難しいことなのに、サボリまくっていた2人にそんなことが理解できるだろうか?
いいや、無理に決まっている!
幽助と桑原が延々悩んでいる間にも、蔵馬は武器についての話を続けていた。
棘の強化、風華円舞陣の作用と方法、その他もろもろ……しかし、自分たちのことで頭がいっぱいな幽助たちは、一番聞きたかった肝心な部分を全く聞いていなかったのだ。
「……ということで、これがその結果!」
ヒュンッ……バコッ…
「あ…」
「あ゛……」
蔵馬の「あれ?」というような声の後、ぼたんの濁った声が続いた。
最後の証明として、振るった薔薇棘鞭刃……まさか直撃するとは思っていなかった。
目の前にぶっ倒れた幽助と桑原を見ながら、蔵馬とぼたんは唖然としていた。
「ちょ、ちょっと蔵馬!!なにすんのさ!」
「……よけれると思ったんだけど」
「あんたね〜!あんな難しいこと連発されて、パニック状態なのに、よけれるわけないじゃんか〜!もう、幽助!桑ちゃん!おきてってば!!」
蔵馬への文句もそこそこに、ノビてしまった幽助と桑原に往復ビンタを食らわすぼたん。
これは蔵馬に対して、それほど怒ってもいないいい証拠だろう。
元を正せば、分からないだろうという蔵馬の忠告を無視して、聞き入ってきた幽助たちにも非があるのだし…。
まあ証明程度に振るった鞭だから、大したダメージではなかったようである。
しかし……肉体は無事でも、精神的ダメージの方はかなり大きかったらしい。
いくらぼたんが殴っても、どついても、蹴っても、ぶっとばしても……2人はいっこうに起きる気配を見せなかった……。
それからしばらくの間、幽助桑原両名は、蔵馬の技を理解するどころか、
「えっと指先に霊気を集中させるのは、全身の霊気を一カ所に……」
「霊剣の形を思い描くのは、つまり想像力と発想力が……」
と、自分の技さえも使えなくなり、混乱と脱力の日々を送ったのであった……。
終
〜作者の戯れ言〜
つくづく不思議に思ってたこと、いちおう書いてみました……。
結局、全然何一つ分かりませんでしたけど(笑)
植物の生長も何も、妖気を送り込んで武器にするという定義だけで十分ですよね、実際。
今回のは失敗だったかな…。
蔵馬さんの長い長い長〜〜い説明、読んでくださった方ありがとうございます!
読まれなかった方、それも正しい選択だと思います(笑)
間違ってる部分、多々あるだろうし…(おい)
分裂生長と伸長生長、中学生でやるのかどうかは覚えてませんので(爆)
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