<春風の祝福> 3
「あれから十六年か〜」
分けられるだけの妖力を注ぎ終わった少年が、懐かしそうに言った。
「そうだな」
「大きくなったよね、蔵馬♪」
「子供扱いするな。全く成長しないやつに言われたくないね」
「酷いな〜。君だって、もうすぐ成長止まるじゃないか」
「俺は変化でいくらでも成長出来る」
「ずるいー!!」
出会ってから、十六年。
彼もまた、幽助や飛影同様、蔵馬にからかわれる立場となっているらしい。
いや、人間の「南野秀一」や極悪妖怪の「妖狐蔵馬」ならばともかく、今の「蔵馬」と関わって、全くからかわれない人物の方が珍しいかもしれないが。
それでも彼は、他の者たちとは違い、このやりとりさえも楽しんでいるようだった。
年に一度、出会えるのは蔵馬一人。
他の人は誰も自分に気づいてくれない。
自分の存在には気づいても、確立された一人の妖怪としては誰も……。
その後、しばらく。
二人はとりとめもない話をしていた。
お互いの現在……とりわけ武術会のことを。
流石に少年も妖怪のはしくれ、暗黒武術会のことはよく知っており、蔵馬がゲストに選ばれたことも聞いていたらしい。
蔵馬の試合には間に合わなかったが、幽助が陣と熱戦を繰り広げていた試合や、桑原が逆転勝利をおさめた瞬間は見ていたとか。
『愛って不思議だね』そう言った少年に、一方的なものだと告げると、大笑いしていた。
「さてと。そろそろ行こうかな」
「もう行くのか?」
「うん。もう僕の仕事は終わったから。ああそうだ。言い忘れるところだった」
「何だ?」
「あのね……おめでとう」
「……は?」
何のことか分からず、きょとんっとする蔵馬。
少年は極当たり前のことを言ったような顔つきだが、蔵馬には祝辞を述べられる心当たりなど思いつかない。
怪訝そうに、少年の顔をのぞき込み、
「何のことだ?……ああ、武術会か?まだ準決勝に進出しただけだぞ」
「違うよ。誰がそんな下らないことで言った?かなり遅れちゃったけど、誕生日だよ、誕生日!」
「あっ……」
すっかり忘れていた。
さっきまで自分が生まれた日のことを話していたというのに……。
あまり『誕生日』だという意識がなかった。
生まれた日=誕生日なのに、何故か……だが、
「……あ、ありがとう。毎年祝ってくれるの、母さんとお前だけだからな」
照れくさそうに言う蔵馬。
軽く立てた爪でかいている頬は、少しばかり赤くなっていた。
それを見て、少年は、
「君って紅いイメージなんだね」
「はあ?」
「よく似合うよ。すごく綺麗」
「そう…か?」
言っている意味はよく分からなかったが……何となく嬉しかった。
似合うと言われたからか、綺麗だと言われたからかは、分からないが。
自然と頬が熱くなる。
更に顔が紅くなっていることに、もちろん本人は気づいていなかった。
「じゃあ、また来年ね!」
「……ああ。元気でな」
「蔵馬もね……」
短い挨拶の後、少年はふっと姿を消した。
直後、突風が吹き、蔵馬の長い髪を靡かせる。
それを抑えながら、蔵馬はゆっくりと立ち上がった。
傷はもう完全に塞がっており、妖力も少年が与えてくれたもので、歩けるまでに回復した。
ふいに、風の行き過ぎた方角に目をやる。
そして歩き出した……頭で考えたのではなく、身体の方が先に動いたようだった。
こんなこと戦いの場では決してないだろう……。
森の中の斜面を下っていくと、海が見渡せる突き出た断崖にたどり着いた。
海から激しい風が吹いているはずなのに、不思議と蔵馬は微動だにせず立っていられた。
まるで、後ろからもう一つ風があるように……そしてそれは、暖かく蔵馬を包み込んでいた。
……来年もまた会えるかどうか。
それは蔵馬にも分からない。
もしかしたら、明後日の試合で死ぬかも知れない。
だが……会いたかった。
また来年も、再来年も、その次も。
生まれた時から一緒にいてくれた風。
春の訪れを告げる季節に生まれた蔵馬にとって、一番近しい存在。
「……来年、またな」
そう言うと、蔵馬は断崖を後にした。
最後に一度だけ振り向いて、
「the spring heralding storm(春一番)…」
と、言い残して……。
終
〜作者の戯れ言〜
記念すべき「一年間で50のお題」の第一話。
だけど……こんなで、果たしていいのでしょうか??
私としては、蔵馬さんは銀色のイメージなんだけど(だったら、書くな)
ついで、四月に春一番が吹くって時点で異常……普通二月くらいなのに……。
というか、長い!!
全部一部完結にする予定だったのに、最初から失敗しました……三部も書いてしまった…。
短いのって、苦手ですー!!
あ〜、こんなじゃ先行き不安……。
でも、週に一話、頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします!!
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