<ゆきのひ> 3

 

 

 

「ああ、本当に失恋≠オたな、と。勝てっこないな、と」

 苦笑気味に言う僕に、黒鵺はぽかんっとした顔になりました。

 

「……お母さん。僕がお腹にいること、知らなかったの?」
「出産日から逆算すると、彼が亡くなる直前に妊娠したようですから。知らなくても不思議はないですよ」
「そっか……あれ? じゃあ、何でお父さんには分かったの?」

「死んでから日数が開いていて、魂にうっすら霊体がかかっている状態でしたから。本来の視力が落ちた分、魂の色はよく見えたんだと思いますよ。彼女の中に、別の色が見えたのならば、充分確証になります」
「あ、そうか……」

 うんうんと頷く幼い彼は、両親の顔を知りません。

 

 父親は元より、母親も彼を生んで間もなく、この世界を去りました。
 たった一人の息子のことを、僕をはじめとする一族に託して。

 僕等がしっかりと引き受けたためでしょう(彼女が知らないとはいえ、恋敵の子ですが、それはそれ、これはこれです)
 彼女は、夫のように現世へしがみつこうとはせず、静かにこの地を去ったのでした。

 

 

 この日は、彼女が死んだ夜。

 あの日も雪が降っていました。
 そして、今夜も。

 元より、雪の多い地域ですが。
 それでも、彼女の命日には必ず雪が降るのです。
 月明かりの中を。

 まるで、雪と月に導かれていた彼が、誰にも彼女を渡さないと告げているように。

 

 この世ならざる者となりながらも、雪の中で輝いていた彼。

 灯滝(ヒタキ)という名でありながら、雪の灯(ゆきのひ)に、僕はなれなかったのです……。

 

 

 

「魂の色、か……それって、生まれ変わっても変わらないんだよね?」
「そうですね。種族が違っていても、それだけは変わらないと聞いていますよ」

「じゃあ、お父さんはお母さんの魂を知ってるんだ……また出会えているのかな」
「どうでしょうね……」

 輪廻転生が世界に存在することは知っています。
 頻度もパターンも山のようにあるそうですが、前世で因縁があった者同士が惹かれあうことは、ままあるそうです。

 しかし、鵺一族は相変わらず、他種族との交流が少なくて。
 彼と彼女が時折訪れていた月夜の湖へも、もはや誰も訪なってはいません。

 もう一度、この一族に生まれ変わってくれない限り、確かめようもないのかもしれません。

 

 ……正直、それでも構わないのですけれどね。

 たとえ、何度生まれ変わろうとも、彼女は彼以外を愛することはなく。
 彼もまた、彼女以上に想う女性を得ることはなく。

 僕がつけいる隙など、微塵もないのでしょうから……。

 

 

 

「……人生で、一度きりですね。怖い≠ニ思ったのは」
「? なにが?」

「君の父君……倉麻殿が」

「お父さんが?? 何で??」

 意地悪な僕は、答えてあげませんでした。
 彼女には聞こえないよう、彼が最後に……僕にだけ見えるように、唇だけで告げた、魂の叫びを。

 

 

『あげませんよ』

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと、脅しすぎたかな。あれ以来、月夜にも姿見せていないって、唯さん言ってたし……」
「どうかしたのか、倉麻? 食べないのか?」

「何でもないよ、つぐみ。――それより、美味しい? アイスクリーム」
「ああ。ここのアイスは美味い! 小学生だけじゃ、店に入れないのが、欠点だけどな。こういう時は、お前が中学生で嬉しい」

「あはは……ハタからは、兄妹にしか見えないらしいのは、ちょっと悲しいけどね」
「何で? 他人からどう思われたって、どうでもいいじゃないか」

「……君は時々、とても男らしい発言をするよね」
「! おれは女だっ!!」

「はいはい、分かってるよ。君は、ぼくの可愛い彼女だからねv」
「……お前こそ、男らしすぎるだろう……(///)」

 

 

 

 終

 

 

 

 

 

 

 

〜後書き〜

 2010年8月から2011年8月にかけての「読んでみたい小説アンケート」にて、一番投票数の多かったのが、「ほのぼの」系。

 コメントにあった「ほのぼの系シリアスで、秀vつぐみを読んでみたい☆」「倉麻vつぐみでもいいなぁ…(^^)v」のつもりです。

 ……何か、微妙にずれている気がしないでもありませんが。
 しかも、中心になってるの、今回初登場のオリキャラだし(滝汗)

 ほのぼのしてるか?
 これが、ほのぼのか??

 謎は深まるばかり……(おい!!)