<しっぽな出会い>

 

 

 

 

 

ある日、妖狐蔵馬と黒鵺に養われていた崇樹だったが、二人が遠出をするため、崇樹は1人残されていた。

自分の身が守れるようになったとはいえ、様々な妖怪がいる魔界で、崇樹1人で生きていくのはまだ難しかったため、妖狐と黒鵺は妖狐の妖力により守られる拠点以外は余り出歩かないように崇樹へ伝えていた。

 

しかし、子供の頃から母親に忌み子として隔離され、ずっと穴の中で暮らしていた崇樹は、外の様子が気になり、そして、つい一歩外に出ると夢中で外出を楽しんでいた。

 

妖狐と黒鵺がそばにいる時は、多少離れていてもすぐに駆けつけ、本人達は守らないと言いつつも、崇樹を見守っていたのは確かだった。

 

 

しかし、今回はそんな二人も傍にいない為、くれぐれも外には出るなと言われていたのだが、崇樹はどうしても気になることがあって、そっと家を飛び出した。

 

「もう空もちゃんと飛べるし、最近は妖狐達にだって追いつけるようになってきたんだぜ… 少し位外にでても…」

 

と少し力がついてきた故に、油断と言うよりおごりが出始めた崇樹は、前から気になっていた場所へと飛び立った。

 

 

「よしっ!ここだ…」

 

崇樹がたどり着いたのは、不思議な建物のような植物の前だった。

前からずっと気になっていた事…

妖狐の奪ってきた宝物はどこに置いてあるのかを妖狐と黒鵺に聞くと、「隠してある」・「知ってどうする」とはっきりとした答えをもらえなかった。

 

そこで、外へ出る時辺りを気にしていると、一箇所妖狐の妖気を感じる場所が、拠点以外に在ることに気がついた崇樹は、いつか忍び込んでやろうと、ずっと考えていたのが、二人が遠出をするということで、その機会が巡ってきたのだと、崇樹は思い切ってその不思議な場所へと赴いた。

 

どこから入るのか調べる為、飛ぶことを止め歩いていると、ある程度近づいた時に、一瞬チリッと刺激を感じた気がしたが、気のせいだとその植物に近づいた。

 

すると、急に妖狐の妖気に混ざって、もう一つ違う大きな妖気を感じ、崇樹は思わず立ち止まった。

確かに、大きすぎると言っていい妖気だが、何故か嫌悪感・恐怖感は無く、ただその大きさに圧倒されるだけだった。

 

そのままウロウロと歩いていると、大きな木があり、その上の方に誰かがいるのを見つけた。

 

 

 

「……なぁ…あんた誰?」

「………」

 

崇樹が下から声をかけると、一瞬崇樹に視線を落としたその人物は、無言のまま、崇樹の目の前に木の上から飛び降り着地した。

 

その人物は、長い髪を三つ編みで束ね、不思議な色のリボンをつけた、女の妖狐であった。

 

「危なっ?!」

「……誰?」

「え?俺崇樹…って、俺が先に聞いたんだけど!」

「私はここの番人…その妖力で、どうしてここの結界を通りぬけ…」

 

そこまで言うと、その妖怪は、崇樹に微かに妖狐の妖気を感じ、それで結界を通り抜けられたことを知った。

 

「…妖狐の妖気…何者?何故あの二人の妖気がまとわりついてる?」

「…え?俺二人の妖気まとってるの??」

「…なるほど…」

「え?だから、なんなんだよ!」

 

急に納得した目の前の妖狐に崇樹は混乱しながらも、自分を殺す気はないと言うのだけは確信していた。

 

 

「…じゃ…」

「ってオイ!!!」

 

おそらく、今の妖狐蔵馬と黒鵺の関係者だと悟った番人の妖狐は、その情報だけ得ると、そのまま飛び上がり再び木の上に戻った。

 

「なぁ!!なんでそんなとこにいるんだ???」

「………」

「なぁって!!」

 

下から大声で叫ぶ崇樹に無視をする…と言うよりは、応えるのがめんどくさいのか、樹の枝に横たわりつつ、尻尾だけブラブラと揺らして寝転んでいる。

 

 

「なぁ…返事してくれたっていいじゃん…」

 

崇樹は、羽を出して飛び立つと、横たわる妖狐の目の前で止まった。

 

「…飛べるの…」

「あぁ!なぁ番人…お前1人なのか?」

「……私以外必要ない…」

「…ふ〜ん…」

「…用がないなら帰ったら?」

「…別にいいじゃん…」

 

そう言いながら、崇樹の目は揺れる妖狐の尻尾に釘付けになっていた。

 

「……何?」

「…なんで、妖狐もだけどさ…尻尾揺らしてんの?」

「さぁ?」

「俺の尻尾揺れないもんなぁ…」

 

自分の尻尾を見ると、兎特有の丸い尻尾がついてる崇樹は、揺れない自分の尻尾をつまらなそうに見た。

 

 

「………」

 

 

「ぅぎゃ?!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「…変な声…」

「急に握るなよ!!びっくりするだろ!!!」

「…気になった…」

 

目の前に尻尾が来たことで、妖狐は思わずその尻尾を鷲掴みすると、崇樹はびっくりして距離をとった。

 

 

「…お前らみたいに揺れたら面白いのに…」

「…その自分の尻尾一日中追い掛け回してそう…」

「あ…それやりそう…もしも俺の尻尾揺れてたら…って、やるか!!目が回るだろ!!」

「目が回って、倒れて治ったらまたやるんでしょ?」

「あ…そっか…そうだな…」

 

警戒心を一切無くした崇樹は、何故かその妖狐を気に入り、楽しそうに話し始めた。

 

 

しばらくそうしていると、崇樹が急に耳を立てた。

 

「やべっ…あいつら帰ってきた…?!」

「…??」

「…妖狐達帰ってきた…!」

「…叱られるな…」

「怖いこと言うなよ!!!!とりあえず帰るな番人!またな!!!」

 

それだけ言うと、崇樹はすごい速さで飛び去っていった。

 

「………」

 

番人狐は、その方向を見ながらも、どこか楽しそうな雰囲気をまとっていた。

 

 

 

崇樹が拠点へ帰ると、妖狐蔵馬と黒鵺は不機嫌そうに待っていた。

 

必死で弁解する崇樹に、二人は番人妖狐の気を感じ、崇樹に危険はなかったのだけは察知していた。

 

多少ペナルティーがあったとはいえ、思ってたほど叱られなかった崇樹は、夜今日の出会いを思い出し、嬉しそうに床についた。

 

 

 

 

「あぁぁぁ!!」

「なんだ…?!」

「うるさい…寝たんじゃないのか?」

「あいつの…番人の名前聞くの忘れた!!!!」

「………いいから寝ろ…」

「…まぁ、そのうちまた会えるだろ…」

 

二人に苦笑されつつ、はぐらかされた崇樹は、腑に落ちないまま…

それでも出会いを思い出すと、魔界での妖狐蔵馬と黒鵺以外の妖怪との初めての遭遇に、崇樹は嬉しそうに眠りについた。

 

 

 

 

***

 

 

 

素敵すぎる崇樹さんと璃尾狐の出会いを書いていただいてしまいました〜♪♪

きっと璃尾狐はこの時、おなかすいてなかったんだろうな〜(すいてたら、今頃しっぽは……/苦笑)

きつねのふさふさしっぽもいいけど、うさぎさんのまんまるしっぽも、かわいいですよね〜