第十九部 〜 友好的な魔物 〜

 

 

 

 

陣:戦えるってのに憂鬱以外の何者でもねぇべ。無事に師範が生き返っても殺されそうだべ

幽:心配すんなよ陣。真っ先に殺されるのは鈴木だぜ。

  それにあの蔵馬のことだ、ばーさんにチクったりしねえよ。ゲームから出るまで延々この事をダシに強迫する気だ。ばらす訳がねぇ。

陣:憂鬱通り越して胃が痛くなってきただ。

 

 

 

 

(そんなこんなでセンター前扉に到着)

 

 

陣:着いたー−−!

死:けが人はいるか?

陣:全然ー ってかここまでほぼノーダメージだべ。

 

幽:気持ちいいなー 3グループでても1ターンでおしまいだし。

陣:地道に殴って進むのバカらしくなるくらい速いべ。

幽:コエンマ、まさかここに来るまでに呪文使い切ってねぇよな。

コ:そんなに信用おけんのかわしは。上位呪文ストックがまだ4回残っとる。

凍:上位呪文が2回も使えればここの中ボスは大丈夫だろう。

 

死:四の五の言ってる暇はない、とっとと行くぞ。

幽:はいはい解かりましたよ色男。んじゃー準備いいかー?

陣:おー

コ:うむ

凍:怒らなくてもいいのか?

死:もうイチイチ怒ってたら負けだと悟った。というか早く帰りたい。

凍:(なんだ、最後の一言が本音か。)

 

幽:せーの

 

 

 

ドカッ

 

コエンマ は MAKANITO を唱えた!

 

LVL7 FIGHTER は 塵になった!

LVL7 FIGHTER は 塵になった!

LVL7 MAGE は 塵になった!

LVL7 MAGE は 塵になった!

 

トウヤ は MADALTO を唱えた!

 

HIGH PRIEST は 死んだ!

HIGH PRIEST は 死んだ!

 

シシワカマル は BADI を唱えた!

HIGH NINJA は 死んだ!

 

(戦闘終了)

 

 

 

 

陣:え?終わり?

幽:まてーーーーい!なんだその呪文!

死:カンジョードーミャクニケッセンヲユーハツサセル呪文だそうだ

幽:取扱説明書棒読みにしたような文章じゃわかんねぇよ。

 

コ:よい子のみんなにわかりやすく説明すると、ドラクエのザキにあたる呪文の事さ。

幽:わかりやすくねー上に誰に向かって喋ってんだよ

コ:画面の前の良い子達

凍:業界用語で『空気と会話』というシュチュエーションか

陣:オラ風読むことは出来るけど流石に空気と会話した事はねーわ

 

 

死:話がこじれたので流れを戻すぞ。お前でもわかるよう説明すると、唱えると相手が即死する呪文だ。

幽:あー、よくわかった。ってか最初からそう言え

 

凍:何はともあれ無事戦闘終了だな。

幽:宝箱はもったいねーけど、無視するっきゃねーな。

陣:んだ、早く師範の首さ探さすべ

 

 

 

 

 

グォォォォオオオオオオォォォォォッゥゥゥゥ…

 

 

 

 

コ:な、なんだ 今の声…

陣:ものすごーい いやーな――

 

 

パーティが見上げたその先には師範の首を咥えじゃれ付き遊ぶ熊の姿

 

 

 

陣:予感がす・・・うわぁああああムガッ!!

凍:(陣!声が大きい!!)

死:(驚いて熊が噛み砕いたらどうする気だ!)

幽:(やべーよあれどーすんだよ!!)

コ:(危険が危ないぞ!というか既に手遅れではないか!?)

 

凍:(落ち着け、眼球もどうやら無事らしい、目立った外傷は無さそうだ)

幽:(落ち着けったってあれじゃいつパクリってやられてもおかしかねーぞ!)

陣:(つーか既に食われ(かけ)てるっぺ!)

 

 

 

 

冒険者を尻目に心底楽しそうに遊ぶ熊

が、ふいに気配に気付いたのかびくっと体を引きつらせ後ずさりした

驚いた拍子に首を床に取り落としてしまう

 

陣:(熊が気が付いた)

幽:(今だ!)

 

取り落とした首に飛びつく幽助

だが熊は冒険者が自分の遊び道具に飛びつくのを見ると

すばやく遊び道具を拾い駆け出した

 

 

 

幽:おいまて熊公!!

陣:幽助!挟み撃ちにするだ!

 

どうやら冒険者が欲しい物が自分の持っている遊び道具であるとわかった熊は

冒険者の方をちらちらと伺いながら走っては止まり、走っては止まり…

追いかけっこを楽しんでいるようだった

 

 

 

陣:大人しくつかまるだこん畜生!

幽:んなガメツイ性悪の首食ったら腸ねん転起こすぞ!

凍:…幽助、仮にもお前の師匠だろうが、もっと他に言い様はないのか

コ:あの熊遊んでおるな

死:モンスターの癖に全然襲ってくる気配なんぞないな

 

凍:多分あれは“フレンドリーモンスター”だろう

陣:なんだそのフレンドリーモンスターって

凍:お前ちょっとは蔵馬の説明真面目に聞いたらどうなんだ迷宮探索の初期の頃説明されたはずだろう?

  “フレンドリーモンスター(友好的な魔物)”というのはその名の通り、冒険者に対して危害を加えない無害なモンスターを指すんだ

 

陣:どこが無害だべ?

コ:まだ無害だな今のところ、食われていないだけ。

凍:今まで出あったことは無かったのか?

幽:であったかも知んねーけどモンスター見たら速攻で殴ってたからな

陣:んだな。

 

 

 

凍:お前たち…まぁとにかく、このまま追いかけっこを続けても埒が明かないな。相手は動物だ。何か熊の気を誘う方法でおびき寄せるんだ。

幽:そうか、よし、おい熊公!今オメーが口に咥えてるもん

  離してくれたらいいもんやるぜ!ほうら 活きのいいヌイグルミだぞ!!

陣:こっちのほうが旨そうだぞー

 

死:こぉらああああ何をする!!!

 

凍:頼むから二人とも、今だけは真面目にやってくれ。

陣:オレは大真面目だ。

死:どこかで聞いた台詞を使いまわすんじゃない。いいから離せ!

 

 

ふいに追いかけてこなくなった冒険者達のほうを見ると

冒険者が小さな生き物を差し出している。

熊は、自分か咥えている『遊び道具』と『小さな生き物』を見比べながら、のそりのそりと近づいてきた。

 

 

 

コ:おお 熊が興味を示したようだ

幽:よーし熊公!このヌイグルミとその首 交換だ

死:ちょっとまたんか!

凍:・・・すまないが死々若、今だけ言う事を聞いてくれないか

死:俺に熊の餌になれと?!

 

凍:今、熊はお前に興味を示している、その内師範の首を離すだろう。そうしたら、その首を抱えてそのまま玄室から逃げるんだ。

コ:今のところそれ位しか思いつかんな。それともおぬし、それ以外で何かよい方法でもあるのか?

 下手に攻撃なんぞしたら口に咥えている首ごと砕きかねんぞ?

死:・・・ぐ・・・

 

陣:文句ねぇだか。

幽:なんかオメー今日珍しく僧侶らしいな、死人の心配して。

陣:師範に弱みでも握られてんのかオメ

凍:普通弱み握られてたら喜ぶだろ。弱み握ってる者が死にかけてたら。

 

陣:ん〜じゃ 強みでも握ってんの?

凍:なんでそうなる。

 

コ:そういえばお前たちはあの時(武術会時)その場おらんかったな。

幽:なんだよあの時って

コ:はははは内緒だ内緒 な!

死:(コイツ…ゲーム出たら真っ先に殺す)

 

 

 

凍:とにかく、残り全員は出口に向かって逃げる準備だ

陣:うっし そうときまりゃあ

幽:早速行動開始!

 

 

手荒く死々若丸を熊に投げ出す幽助。当然怒る死々若丸。

間髪いれず突進する熊。その拍子に口からポトリと首が転げ落ちた。

 

 

凍:今だ

陣:逃げるべ!

 

 

飛びかかろうとする熊をかいくぐり首を引っつかんで駆け出す死々若丸

残りのパーティはいち早く出口に走り、扉を蹴破る。

熊が物凄い勢いで駆け寄る。

巨大な爪の付いた腕を振り回し捕まえようとする。

寸でのところで巨大な熊手をかわす。

 

熊が本格的に迫ってきた所で陣が死々若丸を出口に引っ張り込み扉を閉めた。