−碧の逢跡

 

琉那の願い

 

 

 願いが書かれた紙。
 その紙プラスaが飾られた笹を庭先に、南野家では今年12歳を迎える浦飯 琉那の誕生会が行われていた。

 

「誕生日、おめでとう」
「おめでとさん、琉那」

 ケーキの蝋燭(ろうそく)の火を消した瞬間、螢子や温子をはじめ口々に琉那にお祝いの言葉がかけられた。

「…ありがと」

 祝ってもらうのはうれしいもので、琉那は素直にお礼を口にした。
 螢子と梅流が手分けしてケーキを人数分に切り分けてる間、父の幽助を筆頭に秀一や弟からプレゼントが渡された。

「ほれ、プレゼントのラーメンただ券12枚付きだ♪」
「俺からはこれ。使ってくれるとうれしいんだけど」
「琉那姉、はい。おれと碧から」

 次々と渡されるプレゼントは、…父からのはともかく、どれもかわいくラッピングされていて中身が見えない。
帰ってからそのラッピングを開けていくのも、また楽しみだ。
 琉那は顔を綻ばせた。

「ありがと」

 

 それから出し物やらゲームやらのプログラムが一段落つくと、後はそれぞれ話したり遊んだりと時間を過ごしはじめた。
 弟の寵たちと騒いでいた琉那は、ふ・とベランダに目を向けると、いつの間にかひとりでいる幼馴染みの後ろ姿を見つけた。
 寵たちと遊ぶのをやめて、琉那はその幼馴染みの側まで行く。

「ひとりで何してんだ」

 ひょこ、とベランダに顔を出して、琉那は声をかける。

「ピカ」
「ルナ」

 立っている琉那を見上げて、紅光(クラピカ)は首を傾げた。

「そういうルナこそ、どうしたの?」
「ピカがこっちにいるから」

 さらっ、とそう答えながら、琉那は紅光の隣に腰を下ろした。
 ただ黙って二人でいるのもナンなので、少し悩んで紅光は話題を持ち出した。

 

「ルナは何か書いた?」
「なにを」
「願いごと」

 弟たちの作ったおりがみの飾りが飾られ、何枚かの願いごとの紙が結われている笹を紅光は指した。

「ピカこそ」
「☆」

 まさか訊き返されるとは思わなくて、紅光は一瞬驚いた。それから数秒悩むと、息をひとつ吐いた。

「……おれのは、願いにするべきことではないんだ」

 複雑そうに、紅光は微笑(わら)った。
 そんな紅光からさらに訊くことは出来ず、琉那は頭の隅で思った。

 

(綺麗な奴)

 

 男のくせに。
 ベランダは部屋の中と比べれば薄暗い。リビングからの少し強めの光と、夜空のほんのりとした月の光が自分たちを照らす。
 その光で見えるこの幼馴染みは、瑪瑠や蔵馬のような妖狐とは違う綺麗さがあった。…だからといって、人間らしいものではない。

 限りなく人間に近い妖怪の持つ気(オーラ)。――例えるなら、そんな感じだ。

 もうひとつ息を吐くと、紅光は琉那に振り向いた。

 

「ルナは?」
「ぇ、ぁ、あたしっ?!」

 つい紅光に魅とれていた琉那は、わたわたと慌てた。

「あたしは――…」

 目を紅光から逸らして、何の話をしていたかを思い出し、何を書いたかを思い出す。
 確か――。

 

「……」

 思い出して、ちろ、と紅光を見る。

「ルナ?」

 首を傾げる紅光に、少しいじわるそうに琉那は笑った。

「さぁね」
「?」

 自分もあやふやな答えだった分さらに訊くことは出来ず、紅光は疑問符を飛ばすしかなかった。

 

 

 琉那の願いは、天の川のいちばん近く。笹のいちばん上に。

 

 

 ピカと、いつまでもこうしていたい ――と。